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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)12781号 判決

原告

亀田道範

ほか三名

被告

京谷猛

主文

一  被告は、原告亀田道範に対し、金七八二一万二七五〇円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告亀田冨美子に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告城山寿子に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告亀田洋寿に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告亀田道範のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告亀田道範の、その余を被告の負担とする。

七  この判決は、一ないし四項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告亀田道範に対し、金一億一六五三万一八四四円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告亀田冨美子に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告城山寿子に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告亀田洋寿に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成一〇年一月二二日午前七時三〇分ころ

(二)  場所 大阪府吹田市芳野町一八番先路上

(三)  加害車両 被告運転の普通乗用自動車(なにわ五七り三三八)

(四)  被害車両 原告亀田道範(昭和六年八月二四日生、当時六六歳)(以下「原告道範」という。)運転の普通乗用自動車(大阪七一ち一九四四)

(五)  態様 被害車両が東方向に走行中、反対車線を西方向に走行していた加害車両がセンターラインを越えて被害車両の走行車線に進入し、加害車両と被害車両が正面衝突した

2(責任)

被告は、加害車両を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。

3(傷害、後遺障害)

原告道範は、本件事故により、頸髄損傷(四肢麻痺)、神経因性膀胱直腸障害の傷害を負い、平成一〇年八月二六日症状固定し、日常生活は食事以外全介助の状態であり、自動車保険料率算定会により後遺障害等級一級に認定された。

4(損害填補)

三四八九万七九九八円

二  争点

1  原告道範の損害

(一) 治療費 三一五万九六六九円

(1) 症状固定まで 一六〇万六九七〇円(争いがない。)

(2) 症状固定後 一五五万二六九九円

身体の硬直化を防ぐための電気治療、常時尿道に入れているバルーンの交換、洗浄等のため、定期的な医師の往診あるいは看護婦の訪問看護が不可欠である。

原告らは、退院後、平成一一年八月中旬までは従前どおり大阪府豊中市に住んでいたが、そのころ、肩書住所地に転居した。

豊中市在住の際は、〈1〉原告道範の身体の硬直化を防止すべく電気治療等のため週四回整形外科医師の往診を受け、〈2〉医師の指示により、平成一一年一月からは、入浴及び膀胱洗浄の指導・監督のため、週二回善正会訪問看護ステーションから訪問看護を受けていた。

豊中市においては、右の医師の往診及び看護婦の訪問看護の費用自体は市が負担しており、原告らは、平成一一年一月からの訪問看護の経費(主として膀胱洗浄剤の費用)のみ支払っていた。

平成一一年一月ないし八月分の右経費は、合計七万四六八〇円である。

肩書住所地に転居してからは、〈1〉電気治療等のため、週二回医療法人鴻池会秋津鴻池病院の医師の往診を受け(平成一二年四月からは後記のとおり南平医師の診察も受けている。)、〈2〉月二回バルーン(カテーテル)交換のため、内科医の往診を受け、〈3〉リハビリ、入浴のため、週二回看護婦による訪問看護を受けている。

奈良県北葛城郡當麻町では、豊中市のような無料の医師の往診あるいは看護婦の訪問看護の制度はなく、右〈1〉ないし〈3〉の費用は原告道範が負担している。

その費用は、〈1〉については、月額三六五〇円(年四万三八〇〇円)、〈2〉については、月額三〇六〇円(年三万六七二〇円)、〈3〉については、月額五七三三円(年六万八七九六円)である。

右を合計すると、年間の費用は、合計一四万九三一六円となる。

原告道範は、平成一一年八月二四日で満六八歳となったから、平成一一年九月一日時点の平均余命は一四・八一年(平成八年簡易生命表による)である。

したがって、平成一一年九月一日以降の原告道範の生涯にわたる治療費の現価(ライプニッツ式計算法による)は、次の計算式のとおり一四七万八〇一九円となる。

14万9316円×9.8986=147万8019円

したがって、症状固定後の治療費は、一五五万二六九九円(=7万4680円+147万8019円)となる。

(二) 付添看護費 六三六一万七二九〇円

(1) 症状固定までの付添看護費 一一九万三五〇〇円

入院二一七日間

妻原告亀田冨美子(以下「原告冨美子」という。)による付添が週五日、子である原告城山寿子(以下「原告寿子」という。)による付添が週二日

5500円×217日=119万3500円

(2) 症状固定後の付添看護費 六二四二万三七九〇円

〈1〉 平成一〇年八月二七日から平成一一年四月三〇日まで 一八四万三六七八円

原告冨美子を中心に、原告寿子が補助する態勢で看護をしていた。

すなわち、この間は、原告冨美子は昼夜間二四時間看護をし、原告寿子が週二ないし三日、仕事を休んで、昼間(午前九時ころから午後六時ころまで)、通いで看護していた。

原告冨美子にかかる看護費

5500円×247日=135万8500円

原告寿子にかかる看護費

5500円×(247日/7日)×2.5日=48万5178円

〈2〉 平成一一年五月一日から同年八月三一日まで 八〇万九九九〇円

看護のため、原告冨美子は腱鞘炎、高血圧症、甲状腺機能亢進症、慢性肝炎、不眠症に罹患し、原告寿子は、平成一一年当初ころから胃潰瘍となり、同年四月一四日入院し、胃を半分切除する手術を受けている。

平成一一年五月からは、豊中市役所の紹介で、原告寿子の代わりとして、服部家政婦紹介所から週二日看護家政婦の派遣を受けていた(原告らは、原告冨美子一人では看護は困難であるので、毎日の派遣を要請したが、人員的に無理とのことであった。)。

平成一一年五月一日から同年八月三一日までの一二三日間の看護費

5500円×123日+13万3490円=80万9990円

〈3〉 平成一一年九月一日以降 五九七七万〇一二二円

原告道範、原告冨美子及び原告寿子は、平成一一年八月中旬、肩書住所地に移転し、平成一一年九月からは、原告冨美子と看護家政婦一名(週五日)で原告道範を看護し、原告寿子がそれを手伝い、殊に、看護家政婦が来ない土曜日及び日曜日は、原告冨美子及び原告寿子が看護をする態勢を整えた。

右態勢による費用一年分は六〇三万八二四〇円

原告冨美子 5500円×365日=200万7500円

看護家政婦 28万7770円×12か月=345万3240円

原告寿子 5500円×(365日-260日)=57万7500円

平成一一年九月一日から原告道範の生涯にわたる看護費

603万8240円×9.8986=5977万0122円

(三) 入院雑費 二八万二一〇〇円(争いがない。)

1300円×217日=28万2100円

(四) 交通費 六一万九四二〇円

原告道範の入院中、家族らが看護のために通院した際の交通費

(五) 備品購入費 一四二万四二九九円

合計八六万三三三六円

(1) シャワーキャリー(入浴時用車椅子)

(2) サイドレール(ベッドからの転落防止フレーム)

(3) パラケアマット(ベッドマット)

(4) 床走行式電動リフト

(5) スリングシート・フル(リフト)

(6) フルリクライニングキャリー(部屋用車椅子)

(7) ハイトスペーサー(ベッド足部のアダプター)

(8) 血圧計

(9) 介護用マッサージ機器

これら備品は長いものでも、六年間使用すれば買換える必要がある。

したがって、一年間あたりの費用は一四万三八八九円(=86万3336円/6年)である。

14万3889円×9.8986=142万4299円

(六) 自動車購入費 五九六万六八二六円

自動車代金 三六一万六七七〇円

買換期間 六年間(一年間あたり六〇万二七九五円)

60万2795円×9.8986=596万6826円

(七) 家屋改造費 五三六万五〇〇〇円

原告らは、主として原告道範の介護を目的として、新たに土地を求め、住居を新築した。

建物総工費は三五九六万二一四五円であるが、そのうち、原告道範の看護のために費やした特殊な費用は、五三六万五〇〇〇円である(看護及び車椅子での走行を可能とするため、寝室、廊下、一階便所、浴室、洗面所を広くし、段差をなくすことによって増加した費用)。

(八) 休業損害 二一一万四一九四円

(1) 給与分休業損害 二〇一万四一九四円(争いがない。)

平成一〇年一月二六日から同年八月二六日までの二一七日間

本件事故前三か月間の給与 八五万四〇〇〇円(一日当たり九二八二円)

(2) 夏期賞与分 一〇万円

(九) 入院慰謝料 二七五万円(争いがない。)

(一〇) 逸失利益 二〇七六万〇八三九円

年収 三五八万七九三〇円

就労可能年数 七年(症状固定時六七歳)(ライプニッツ係数五・七八六三)

358万7930円×5.7863=2076万0839円

(一一) 後遺障害慰謝料 二七〇〇万円(争いがない。)

(一二) 以上合計一億三三〇五万九六三七円(既払金三四八九万七九九八円)

(一三) 弁護士費用 一一〇七万円

2  その余の原告らの損害

(一) 原告冨美子の固有の慰謝料 三〇〇万円

(二) 原告寿子の固有の慰謝料 二〇〇万円

(三) 原告亀田洋寿の固有の慰謝料 一〇〇万円(原告道範の子)

第三判断

一  原告道範の損害

1  治療費 三一五万九六六九円

(一) 症状固定まで 一六〇万六九七〇円(争いがない。)

(二) 症状固定後 一五五万二六九九円

証拠(甲五の1ないし9、六の1ないし6、七、八、三〇、原告冨美子本人)によれば、原告道範は、身体の硬直化を防ぐための電気治療、常時尿道に入れているバルーンの交換、洗浄等のため、定期的な医師の往診あるいは看護婦の訪問看護が不可欠であることが認められ、その費用は原告ら主張のとおり一五五万二六九九円を要することが認められる。

2  付添看護費 四六六五万六五八六円

(一) 症状固定までの付添看護費 一一九万三五〇〇円

入院期間は二一七日間であり、その間原告冨美子、原告寿子による近親者付添がなされ、原告道範の状態からしてその必要性も認められるから、付添看護費は、一日五五〇〇円として、その二一七日分で一一九万三五〇〇円となる。

(二) 症状固定後の付添看護費 四五四六万三〇八六円

原告道範の状態からすると、二四時間の介護が必要であり、証拠(甲二九、原告冨美子本人)によれば、原告冨美子、原告寿子が中心となり、それに看護家政婦の派遣も得て、原告道範の介護を実施しており、その状況は将来も変わらないことが認められるから、介護費用としては一日一万二〇〇〇円を要すると認めるのが相当であり、症状固定時原告道範は六七歳で平均余命は一五年(ライプニッツ係数一〇・三七九七)であるから、将来の介護費の現価は、次の計算式のとおり四五四六万三〇八六円となる。

1万2000円×365日×10.3797=4546万3086円

なお、原告道範は介護保険の適用を受けうる資格を有してはいるが、原告らは、その申請をしない旨決めている(原告冨美子本人)から、介護保険適用を前提とする損害算定はすることができないし、すべきではない。

3  入院雑費 二八万二一〇〇円(争いがない。)

4  交通費

原告道範の入院中、家族らが看護のために通院した際の交通費については、前記認定の付添看護費の算定の際考慮されており、独立の損害を構成しない。

5  備品購入費 一四二万四二九九円

証拠(甲二一の1ないし4、二二、弁論の全趣旨)によれば、原告ら主張のとおり備品が必要であり、その損害額も主張のとおり一四二万四二九九円であると認められる。

6  自動車購入費

原告らは、自動車購入費を損害として請求するのであるが、自動車購入費用そのものは、その必要性が認められず、本件事故と相当因果関係を認めるには至らない。

7  家屋改造費 五三六万五〇〇〇円

証拠(甲二四の1、2、二六、二七の1ないし9、原告冨美子本人)によれば、原告らは、主として原告道範の介護を目的として、新たに土地を求め、住居を新築したこと、建物総工費は三五九六万二一四五円であったこと、そのうち、原告道範の介護をするために特別な仕様(介護及び車椅子での走行を可能とするため、寝室、廊下、一階便所、浴室、洗面所を広くし、段差をなくすことによって増加した費用)としたために五三六万五〇〇〇円を余分に要したことが認められ、右費用が不合理であることを窺わせる事情はないから、右五三六万五〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

8  休業損害 二一一万四一九四円

(一) 給与分休業損害 二〇一万四一九四円(争いがない。)

(二) 夏期賞与分 一〇万円

証拠(甲二八)により認められる。

9  入院慰謝料 二七五万円(争いがない。)

10  逸失利益 一七三五万八九〇〇円

原告道範の年齢を考慮すると、原告の基礎年収は賃金センサス等を考慮し、年三〇〇万円と認めるのが相当であり、就労可能年数七年(ライプニッツ係数五・七八六三)として、逸失利益の現価を求めると、次の計算式のとおり一七三五万八九〇〇円となる。

300万円×5.7863=1735万8900円

なお、原告道範が四肢麻痺で食事以外全介助の状態であるからといって、生活費を生じないものではないことは明らかであり、これに損害費目としては掲げられない費用を要することは容易に推認可能であることも考慮すると、逸失利益の算定に当たっては、生活費控除はすべきではない。

11  後遺障害慰謝料 二七〇〇万円(争いがない。)

12  以上合計一億〇六一一万〇七四八円

13  右から既払金三四八九万七九九八円を控除すると、七一二一万二七五〇円となる。

14  弁護士費用 七〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は七〇〇万円と認めるのが相当である。

二  その余の原告ら損害

原告冨美子は、原告道範の妻であり、原告寿子及び原告亀田洋寿は原告道範の子であり(甲三八ないし四〇)、原告道範の傷害及び後遺障害の程度及び介護の状況を考慮すると、原告道範を除く原告らの固有の慰謝料は、請求のとおりと認めるのが相当である。

1  原告冨美子の固有の慰謝料 三〇〇万円

2  原告寿子の固有の慰謝料 二〇〇万円

3  原告亀田洋寿の固有の慰謝料 一〇〇万円

三  よって、原告らの請求は、原告道範については七八二一万二七五〇円、原告冨美子については三〇〇万円、原告寿子については二〇〇万円、原告亀田洋寿については一〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である平成一〇年一月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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